このサイトは「リンパ球バンク株式会社」をスポンサーとして、Zenken株式会社が運営しています。
放射線を身体に当てると、がん細胞だけでなく、正常細胞も影響を受けるので、放射線治療ではさまざまな副作用が出る可能性があります。安心して放射線治療を受けるために、副作用について事前によく理解しておくことが大切です。
放射線の副作用は、外見に影響を及ぼすもの、日常生活に影響が出るもの、命に関わるもののように、大きく3つに分けられます。
外見に影響を及ぼす副作用の症状は、放射線を当てた部分の皮膚の発赤や色素沈着、脱毛などです。日常生活に影響が出る副作用の症状には、喉の痛み、便や尿の排泄障害などがあり、喉の痛みによって、食事が飲み込みづらくなることで食欲が減ったり、痩せてしまう可能性があります。
命に関わる副作用の症状には、粘膜からの出血による下血や血尿、肺炎などが挙げられます。
放射線治療による副作用の症状は、放射線を当てる範囲や放射線の種類、患者さんの状態などにより異なるので、個人差があります。副作用に対して事前によく備えておき、早めに対応することが大切です。
放射線の副作用には、局所的なものと全身性のものがあります。局所的な副作用は、放射線を当てた部位で起こります。たとえば、胸の治療では頭の脱毛は起こりませんが、放射線を当てた胸の皮膚に発赤が起こることがあります。
一方で、放射線を当てた部位に関係なく、倦怠感や吐き気、頭痛など全身性の症状が起こる場合もあります。副作用は、放射線治療を受けた後に誰にでも起こる可能性があります。症状が強い場合や日常生活に影響が出る場合には早めに医療機関に相談しましょう。
放射線治療の副作用は、治療後の早い時期に起こるものと治療後に時間が経過してから起こるものがあります。放射線治療開始後から数週間までに起こる副作用を「急性期反応」、治療を行ってから数か月から数年で起こるものを「晩期反応」とよびます。
急性期反応は多くの方に起こる可能性があるものの、治療が終われば徐々に症状が改善することが多いです。一方で、晩期反応は起こる可能性が低いものの、起こってしまうと症状の改善に時間がかかったり、場合によっては回復することが難しい場合があります。
放射線治療後に、疲れやすい、だるいなどの副作用が出る場合があります。倦怠感が出る理由は、放射線治療によってダメージを受けた正常細胞が修復するために多くのエネルギーを必要とするからだと考えられています。倦怠感の症状は、治療回数が重なるほど出やすくなるといわれていますが、治療の終了後に徐々に改善します。
倦怠感の症状が出ないように、治療中は過度な運動は避けたほうがよいでしょう。また、疲れやだるさの症状が出たら、無理せずに休むことも大切です。体調が悪いときには何でも自分でやろうとせずに、家族や友人などのサポートを受けましょう。食事や水分はできる限りとるように心がけ、難しい場合は早めに医療機関に相談してください。
放射線を頭やお腹に当てた場合や。放射線を広い範囲に当てた場合に、吐き気や嘔吐、頭痛、めまいなどの症状が強く出ることがあります。症状は放射線治療を始めてから比較的早い時期に起こる場合が多いですが、個人差があります。一般的に、症状は1週間程度で改善します。症状に対して、吐き気止めや副腎皮質ホルモン、鎮痛薬などが治療薬として処方される場合もあります。
吐き気や嘔吐、食欲不振などの症状があるときは、1日3食にこだわらずに、気分がよいときに食べやすいものを少量ずつ食べるとよいです。脱水にならないように、水分もこまめにとりましょう。吐き気や嘔吐のため歯みがきができないときは、うがいだけするようにしましょう。
頭痛やめまいなどで調子が悪いときには無理をせず、家族や友人のサポートを受けましょう。
放射線によって、血液細胞を作る骨髄の機能が低下することがあります。骨髄の機能が低下することを骨髄抑制といいます。骨髄抑制が起こると、血液細胞である白血球や血小板、赤血球の数が減ります。
白血球は細菌とたたかう機能があり、赤血球は酸素を運び、血小板は出血を防ぐはたらきがあるので、骨髄抑制になると病気に感染しやすくなったり、貧血や出血などの症状が出ることがあります。
骨髄抑制は、広い範囲に放射線を当てると起こりやすいといわれています。骨髄抑制に早めに気づくために、定期的に採血をして白血球や赤血球、血小板の数を確認します。白血球や血小板の減少が強い場合には、放射線治療を中止することもあります。
放射線治療における晩期の副作用として、二次がんの発生が知られています。二次がんの発生とは、放射線治療後に数年以上経過してから放射線を当てた部位に新しいがんが発生することを意味します。ただし、二次がんの発生は非常にまれなので、現在のがんの治療を優先したほうがよいと考えられています。
身体の外から放射線を当てる体外照射という治療法では、どの方向から照射しても皮膚に必ず放射線が当たります。皮膚に放射線が当たると、皮膚に炎症が起こり、さまざまな症状が出ます。放射線による皮膚炎の症状は、治療開始から2~3週間で起こることが多く、皮膚のかゆみや赤み、痛みなどが出ます。
治療を終えると、皮膚炎の症状は改善する場合が多いですが、色素沈着や皮膚の乾燥、かゆみなどが残る可能性もあります。皮膚のびらんや痛みが強くなるなどの症状がある場合は、皮膚の保護や炎症を抑える目的で軟膏が処方されることがあります。
皮膚炎の重症化を防ぐためには、皮膚の清潔を保ち、保湿し、保護することが大切です。照射部位の皮膚を洗う際はこすらないようにして、せっけんの泡で優しく洗いましょう。入浴やシャワーをするときは、40℃以上の熱いお湯は皮膚への刺激になるので避けましょう。
また、照射部位が下着などでこすれたり、衣服で圧迫されると刺激になるので、生地の素材や縫い目の状態を確認し、ゆったりしたものを着用したほうがよいです。外出するときは、照射部位の皮膚の露出を避け、ぶつけたりしないように注意しましょう。
頭皮や脳などの頭部に放射線を照射した場合は、毛髪の脱毛や認知機能の低下が起こることがあります。毛髪の脱毛は、治療を開始してから約2~3週間後に抜け始める場合が多いです。治療終了後3~6ヶ月すると毛髪が生え始め、6ヶ月~1年でほぼ回復するといわれています。ただし、たくさんの放射線が当たった場合には、永久脱毛になる場合もあります。
毛髪の脱毛があるときは洗髪をするのをためらってしまうかもしれませんが、頭皮の炎症を避けるために、頭皮は清潔にしたほうがよいといわれています。
また、頭皮になるべく刺激を与えないほうがよいと考えられています。洗髪時は、ぬるま湯を使用し、爪を立てずに指の腹でゆっくりと丁寧に頭皮や髪を洗うようにしましょう。しみたりする場合は、シャンプーを使用しなくてもOKです。
洗髪後もタオルでごしごしと拭くのは避け、ドライヤーの使用もなるべく控えましょう。かつらや帽子、バンダナなどを上手に利用して毛髪の脱毛をカバーすると、脱毛による精神的なショックを和らげることができるかもしれません。
頭頸部に放射線を照射すると、喉や口、唾液腺、目、鼻、耳などに副作用が出ることがあります。放射線によって喉に炎症が起こると、痛みや声がれなどの症状が出ます。食事をすると、しみるので食欲低下の原因になる場合もあります。また、唾液が減少し、味覚が低下したり、味を感じなくなることがあります。
放射線が目に照射されると結膜の炎症や涙の減少、白内障、視機能障害などが起こったり、鼻に照射されると鼻汁が減ることがあります。耳に放射線が照射された後に、耳の炎症により耳が聞こえづらくなる場合もあります。
口や喉の粘膜の炎症や口腔内の乾燥があるときは、食事の工夫と口腔ケアが大切です。
食事は食べやすいように、やわらかく煮込んだり、とろみをつけてみるとよいです。熱いものや塩分が濃いもの、香辛料などの刺激が強いものは避けましょう。口の乾燥があるときは、こまめに水分を補給し、味覚の低下があるときには、だしやゴマ、酢などをうまく利用して味を感じやすくすると効果が見られるかもしれません。
口の中を清潔に保つために、うがいをこまめに行い、歯みがきも丁寧にしましょう。
胸部に放射線を照射すると、肺や食道などに炎症が起こることがあります。食道の粘膜に炎症が起こると、痛みや胸やけ、物がつかえるような症状が出現し、食事を食べることが困難になります。一般的に、食道の粘膜の炎症による症状は治療開始後2週間くらいから起こり、治療を終えると徐々に改善する場合が多いです。
食道炎の症状がある場合は、禁酒、禁煙を続けながら、香辛料や炭酸飲料などの刺激の強いものや熱すぎる飲み物や食べ物は避けましょう。
放射線によって肺に炎症が起こることもあります。主な症状は咳、発熱、呼吸困難などです。自然に治癒しない場合は、抗菌薬の投与が必要になることもあります。日常生活では、禁煙、無理をせずに休憩する、肺炎に伴う症状が出た場合はすぐに受診することが大切です。
腹部に放射線を照射すると、胃や腸、子宮、卵巣、前立腺、精巣、腎臓や膀胱などさまざまな臓器に影響が出ることがあります。
たとえば、小腸や大腸、肛門の粘膜に炎症が起こると、吐き気、腹痛、下痢、肛門炎などが生じる可能性があります。治療開始後2~4週間で出現する場合が多いものの、治療が終わると徐々に回復することが多いです。治療から数か月、数年後と経過してから生じる症状には、腸管の狭窄や閉塞、潰瘍、出血などがあり、まれに外科的な手術を行う必要があります。
日常生活では、脱水にならないように水分はこまめにとり、食べやすいものを調子のよいときに食べるようにするとよいでしょう。肛門周囲の清潔を保つために、温水洗浄を利用したり、拭くときはこすらずに、紙で押さえるようにして拭きます。
放射線によって、尿道炎や膀胱炎が起こると、頻尿や血尿、排尿時痛などの症状が出ます。水分は、1日にコップ6~8杯程度の量をとるように心がけましょう。陰部を清潔に保ち、尿意を我慢しないほうがよいです。出血や痛みの症状が強くなった場合は、早めに医療機関に相談しましょう。
放射線治療による影響が骨や筋肉に出ることもありますが、比較的まれです。骨や筋肉に放射線が当たると、骨折やむくみ、関節が動かしづらくなる、などの症状が出ます。小児や若年の方の場合は、骨の成長障害に注意が必要です。また、骨折した場合には手術が必要になることもあります。
活動量(運動量)は、担当医と相談して進めたほうがよいです。もし、放射線治療後に手足の動かしづらさや痛みなどを自覚した場合は、無理に動かさずに受診しましょう。
放射線と聞くと、家族や周りの人への影響が気になる方も多いかもしれません。放射線治療には、いくつかの方法があります。具体的には、体外照射や組織内照射、内用療法などがあります。体外照射は、身体の外から放射線を当てるので家族や周りの人への影響はありません。一方で、組織内照射や内用療法では家族や周囲の人への配慮が必要になります。
組織内照射とは、組織内に線源を挿入し、放射線を直接がんに照射する方法です。組織内照射による治療を行うがんには、前立腺がん、舌がん、乳がんなどが含まれます。線源は、一時的に挿入する場合と永久的に挿入する場合があります。
永久的に線源を挿入する場合は、家族や周りの人へ配慮したほうがよいです。ただし、線源は弱く、時間が経過するとともに放射線量は徐々に減っていくので心配し過ぎる必要はありません。
念のために、治療前に周囲の方とどれくらいの時間や頻度、距離で接するかを確認し、周囲の方の被ばくの程度を計算します。小さな子供や妊婦との近い距離での、長時間の接触はしばらく控えたほうがよいといわれています。
組織内照射を行っていて、日常生活を送る上で不安なことがある際は、担当医によく聞くようにしましょう。
内用療法とは、放射線を出す物質(放射性同位元素)を経口または静脈注射によって体内に取り込む治療法です。体内に取り込まれた放射線を出す物質は、がんが発生している部位に集まり、がん細胞の内部から放射線を照射します。
内用療法の適応となるがんは、甲状腺がん、前立腺がんの骨転移、一部の悪性リンパ腫、神経内分泌腫瘍などです。がんの種類によって、使用する放射性同位元素は異なります。たとえば、甲状腺がんに対してはヨウ素131を内服で投与しますが、前立腺がんの骨転移に対してはラジウム223が注射で投与されます。
内用療法では、体内に放射線が残っているため、周囲への被ばく防止のための行動制限が必要になります。周囲の人と長時間、近距離での接触は控えましょう。特に小さな子供や妊婦との接触は、被爆の可能性があるのでしばらく控えましょう。
放射線治療を行うと、照射した部位の副作用だけでなく全身の副作用が出ることもあります。また、副作用の出る時期の違いから、急性期反応と晩期反応に分けられ、急性期反応は一時的で治療終了と共に徐々に改善していくといわれています。しかし、いずれの副作用も患者さんの生活の質を下げるといわれています。
副作用はできるなら起こらないほうがよいですが、残念ながら完全に避けることはできないので、治療前に放射線治療の副作用についてよく理解しておくことが大切です。
<この記事を書いたのは・・・>
如月 真紀(きさらぎ まき)
医師、医学博士、総合内科専門医。都内の大学病院勤務を経て、現在はアメリカで研究中。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、医療系コンテンツ制作など幅広く手がけている。研究の傍ら、医学の知識や医師の経験を活かし、患者や患者家族のためになるコンテンツ作成を目指している。
関連リンク