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乳がんのなかには、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの影響を受けて、がん細胞が増殖するものがあり、「ホルモン感受性陽性乳がん」とよばれています。
ホルモン感受性陽性乳がんでは、エストロゲンが乳がん細胞の中にあるエストロゲン受容体と結びつくことによって、がん細胞が増えていきます。ホルモン感受性陽性乳がんに対する治療法の1つにホルモン療法があり、「ホルモン療法剤」を用いてエストロゲンの産生を抑えることや、エストロゲンがエストロゲン受容体と結合するのを阻害することによって、がん細胞の増殖を抑えます。
ただ、エストロゲンは女性にとって必要なホルモンなので、ホルモン療法によりエストロゲンの産生や作用を阻害すると、更年期障害のような症状や骨粗しょう症、関節痛、気分の落ち込み、不眠などの副作用が現れる場合があります。
ホットフラッシュは、更年期の症状としてよく知られています。ホットフラッシュが起こるのは、血液中のエストロゲンが少なくなり、体温調節がうまくできなくなるからではないかと考えられています。ホルモン療法でも、エストロゲンの作用を抑えるのでホットフラッシュが起こることがあります。
ホットフラッシュの症状としては、のぼせ、ほてり、発汗などが挙げられます。具体的には、突然かっと熱くなったり、胸から顔にかけて赤くなったり、突然顔や胸、わきなどからたくさんの汗をかいたりします。ホルモン療法の副作用として起こるホットフラッシュは、次第に軽減することが多いといわれています。
ホットフラッシュへの対処法として、衣類を工夫するとよいといわれています。カーディガンや上着など脱ぎ着しやすい服装を心がけ、暑さや寒さを調整するとよいです。
また、大量の汗で衣類が濡れると不快に感じることが多いので、汗をよく吸い、すぐに乾くような機能性下着もおすすめです。汗で身体を冷やさないように、こまめに着替えるようにしましょう。
カフェインやアルコール、香辛料をたくさん使った食事は、ホットフラッシュの原因になりやすいといわれています。また、炭酸飲料や冷たい飲み物は胃腸を刺激し、代謝を低下させます。刺激の少ない、温かい食べ物や飲み物を選ぶようにするとよいです。
また、適度な運動はホットフラッシュの症状を緩和します。例えば、散歩やストレッチなどの軽い運動は、血行をよくして自律神経のバランスを整えるので、ホットフラッシュに対する良い方法になります。運動習慣のない方は、階段の使用や、電車ではなく徒歩にするだけでも運動になります。無理なく続けられる運動の方法を探してみましょう。
ホットフラッシュの症状が出た時に、持っておくと便利なアイテムがいくつかあります。もし、ホットフラッシュで身体が突然熱くなった時には、濡らしたタオルやウェットティッシュで身体を冷やすとよいです。冷やす場所は、首の後ろやわきの下、足のつけねなどがおすすめです。
わきから大量に汗をかくと、シャツがしみになってしまうことがあるので、汗わきパッドを準備しておくのもよいでしょう。顔に風を当てると、急なほてりや発汗を和らげることができるので、手持ち扇風機や扇子、小さめのうちわを携帯しておくと便利です。
エストロゲンには、骨を健康に保つ働きがあります。ホルモン療法によりエストロゲンの産生や作用が低下すると、骨粗しょう症が起こることがあります。
骨粗しょう症になると、骨折しやすくなるので注意が必要です。また、ホルモン療法により関節の痛みやこわばりが起こる場合もあります。
ホルモン療法により、早い時期に閉経となった場合には、年に1回の骨密度測定を行います。骨密度が低いと、骨折するリスクが高くなります。骨を強くするためには、カルシウムやビタミンDを多く含む食品やサプリメントの摂取、定期的な運動を心がけるとよいといわれています。骨密度の低下を認めた場合には、医療機関で内服薬や注射薬による治療を行うこともあります。
肩やひじ、膝、指などの関節に痛みやこわばりを感じる時には、我慢せずに医師に相談しましょう。時間経過とともに改善する場合もありますが、必要であれば鎮痛薬の内服をすることもあります。
エストロゲンには、気持ちや自律神経を安定させる作用があります。ホルモン療法でエストロゲンの産生や作用が低下すると、気分の落ち込みやイライラ、不眠などの症状が出ることがあります。心がつらいと感じる時には、我慢しないようにしましょう。
気分の落ち込みやイライラへの対処法としては、運動やアロマテラピー、森林浴、音楽鑑賞、温泉などがあります。運動には、気分の落ち込みやイライラを改善する効果があるといわれています。ウォーキングや水中歩行、ヨガのような軽めの有酸素運動がおすすめです。また、リラクゼーション効果のあるアロマテラピーや森林浴、音楽鑑賞なども気分の落ち込みやイライラへの対処法になります。
いろいろな方法がありますが、大切なのは自分自身に合った心地よい方法を見つけることです。症状がつらい場合、自分では対処できないと感じた場合には、医師や薬剤師に相談してみましょう。医療機関では、薬やカウンセリングなどの治療法を受けられます。
更年期障害の症状を和らげるために、低下した女性ホルモンを薬で補充する「ホルモン補充療法」を行う場合があります。しかし、乳がんに対するホルモン療法で起こった更年期障害のような症状に対して、ホルモン補充療法を行うことはありません。
乳がんのホルモン療法は、女性ホルモンの作用を抑える治療法ですが、ホルモン補充療法は女性ホルモンを補う治療法です。つまり、ホルモン補充療法とホルモン療法の作用は全く逆のものになります。実際に、乳癌術後の患者さんに対してホルモン補充療法を行うと、乳がんの再発が増えることが複数の研究で報告されています。
<この記事を書いたのは・・・>
如月 真紀(きさらぎ まき)
医師、医学博士、総合内科専門医。都内の大学病院勤務を経て、現在はアメリカで研究中。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、医療系コンテンツ制作など幅広く手がけている。研究の傍ら、医学の知識や医師の経験を活かし、患者や患者家族のためになるコンテンツ作成を目指している。
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