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骨転移を認めた場合には、ステージ4の進行がんと診断されます。そのため、骨にがんが転移したら長くは生きられないと考える方も多いかもしれません。
しかし、骨転移そのものが命を脅かすわけではありません。骨転移による症状をよく理解し、早めに治療を行うことが大切です。こちらでは骨転移と余命の関係について分かりやすくまとめています。
もし、骨転移をしたとしても、骨転移そのものは生命を脅かすものではありません。
以前は、骨転移を認めた場合には、がんの末期状態と考え、治療を行わないこともありました。しかし、最近では治療薬や治療法の進歩により、がんを発症しても以前より生存期間が長くなっています。
ただし、放っておくと痛みや骨折、麻痺などにより患者さんの生活の質が低下するという問題が起きます。また、骨転移による症状のために、がんに対する治療を行えないと生命予後に影響が出ます。
最近では、骨転移に対する治療薬の開発も進んでいます。QOLを維持しながら余命を伸ばすためには、がんの治療を行いながら、骨転移とうまく付き合っていくことが大切です。
がんの種類によって、骨転移しやすいがんがあります。また、早期に骨転移しやすいがんもあれば、がんが進行してから骨転移するものもあります。
早期に骨転移しやすいがんとしては、肺がん、前立腺がん、乳がん、多発性骨髄腫などが知られています。早期に骨転移しやすいので、骨転移がきっかけで、がんが見つかることも多いです。
がんが進行してから骨転移が起こるものとしては、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、子宮頸がん、卵巣がん、咽頭がん、皮膚がんなどが挙げられます。肺や肝臓など他の臓器への転移が見られるようになってから骨転移が起こる傾向があります。
骨自体は痛みを感じませんが、がん細胞が骨の周りの神経を刺激すると痛みが起こるといわれています。最初は軽い痛みでも、徐々に強い痛みに変わっていくことが多いです。身体を動かしたり、体重がかかると強く痛む場合があります。
ただし、治療薬の副作用で痛みが出ることもあるので、痛みがあるからといって骨転移とは限りません。
骨転移による骨折は、病的骨折とよばれます。骨転移による骨折は、骨が溶け、骨の強度が低下し、体重や筋収縮の負荷に耐えられなくなることで起こるといわれています。
身体を支える骨盤や大腿骨を骨折してしまうと歩行に支障が出るので、日常生活が困難になります。
また、骨折がきっかけで寝たきりになると、生活の質が低下するだけでなく、余命にも影響が出るので注意が必要です。
背骨にがんが転移すると、脊髄を損傷するので麻痺の症状が出る可能性があります。具体的には、しびれる、踏ん張りがきかない、足がもつれる、足首をそらしたり踏み込んだりできない、というような症状が起こります。脊髄が傷ついてしまうと回復は期待できないため、寝たきりになってしまうことが多いです。
麻痺の程度により、排泄のコントロールもうまくできなくなる場合もあります。もし、足の動かしづらさを感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
骨転移により骨が破壊されると、骨のカルシウムが血液の中に放出されるので高カルシウム血症になることがあります。高カルシウム血症の症状としては、倦怠感、食欲不振、吐き気、便秘、腹痛、喉の渇き、多尿などが挙げられます。
重症な場合には意識障害を起こすこともあり、適切な治療を行わないと命を落とす可能性もあるので注意が必要です。
骨転移の治療は、がんに対する治療を基本に、骨転移の進行を抑える治療と骨転移による症状を抑える治療を行います。
がんに対する治療には、抗がん剤を使用して行う化学療法やホルモン療法などが含まれ、がんの増殖を抑えます。骨転移の進行を抑える治療には、ゾレドロン酸やデノスマブが含まれ、骨転移が進行しないように働きかけます。
骨転移による症状を抑える治療には、放射線治療や手術、鎮痛薬の服用が含まれます。放射線治療は、骨転移による痛みを和らげ、骨折を予防する効果を期待できます。骨折した場合には、手術を行います。また、骨転移による痛みを和らげるために、さまざまな鎮痛薬があり、痛みの強さの程度によって種類や服用量が決まります。
骨転移による痛みに対して、鎮痛薬を使用することがあります。使用する鎮痛薬の種類や量は、痛みの強さの程度によって異なります。例えば、弱い痛みの場合には、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使います。非ステロイド性消炎鎮痛剤は、市販の頭痛薬や鎮痛薬にも含まれています。
非ステロイド性消炎鎮痛剤を服用しても十分な効果が得られない場合には、鎮痛効果の高い医療用麻薬が使用されることがあります。医療用麻薬には、飲み薬、座薬、貼り薬、注射など多くの種類があるので、使用しやすいものを選べます。複数の鎮痛剤を組み合わせて治療する場合もあります。
骨修飾薬は、骨転移による症状が起きるのを改善したり、遅らせる目的で使われます。骨修飾薬は、がんの住み着く場所を作る破骨細胞の働きを抑える薬です。破骨細胞の働きが抑えられると、骨転移の進行を抑えることができます。骨修飾薬には、ゾレドロン酸やデノスマブなどの薬が含まれます。
骨修飾薬を使用する際には、発熱や腎機能障害、顎骨壊死(がっこつえし)などの副作用が出る場合があるので、治療後に体調の変化を認めた時には早めに医療機関に相談する必要があります。顎骨壊死は聞き慣れない病名かもしれませんが、あごの骨が壊死し、あごの痛みや歯のゆるみ、歯ぐきの腫れなどの症状が出ます。
放射線治療には、がん細胞の量の減少、痛みの緩和、骨折や脊髄圧迫による下半身麻痺の予防、壊れている骨の再生などの効果を期待できます。手術に比べて身体の負担が少ない治療法なので、骨転移と診断された場合には最初に選択されることの多い治療法です。
ただし、放射線治療を行った後に、皮膚の赤みやかゆみ、倦怠感、吐き気などの副作用が起こる場合もあります。副作用による症状は、薬によって軽減させることができるので担当医に早めに相談しましょう。
手術は、骨折や脊髄圧迫に対して行われる治療法です。手術の目的は、骨転移による痛みの緩和、歩行能力の維持や再獲得、がん転移部の切除など。また、骨を補強して骨折を予防する目的で行われることもあります。
手術は、鎮痛薬の服用や放射線治療に比べて身体の負担の大きい治療法なので、患者さんの状態によっては行うことができません。もし、手術を行える状態だったとしても、手術によるメリットが手術のリスクを上回ると判断された場合に実施されます。例えば、腕や太ももの骨に骨転移による病的骨折が起こった場合には、痛みが強いので可能な限り手術を行います。
リハビリテーションも骨転移に対する治療法の1つです。リハビリテーションは、治療や病変に合わせた日常行動の方法の習得や筋力低下の予防のために行います。必要に応じて、杖やコルセットなどの補装具を使用します。
患者さんが生活の質を維持しながら、日常生活を無理なく送ることができるようになるために行うのがリハビリテーションなので、骨転移が発生している部位や進行度、症状などによって治療内容が変わります。
また、患者さんが最終的にどのように過ごしたいかという意思もリハビリテーションを行う上で重要です。例えば、背骨に骨転移のある患者さんの目標が、「一人で家のトイレに行きたい」というものであれば、筋力を強くしたり、関節の動く範囲を広げられるようにリハビリテーションを行います。
腕や肘の骨に転移がある場合には、腕をひねったり、腕に負担がかかるような動きは避ける必要があります。例えば、洗濯や掃除などで重い物を持つことは避け、ベッドから起き上がる時には腕で身体を支えないようにしたほうがよいでしょう。
腕をひねるような動きとは、重い戸を開けたり、身体の後ろに腕を回したりするような動作です。具体的には、トイレの時に骨転移のないほうの手で拭くようにしたり、ベッド柵を設置して骨転移のない手で柵を握ってベッドから起き上がるようにします。
太ももの骨や骨盤に転移がある場合には、杖や歩行器、車いすなどを使用すると骨への荷重を軽減できます。
車椅子に移動する時に、足を動かさずに上半身の向きを変えると、太ももにねじれが加わり、骨折や痛みが発生する可能性があります。一度しっかり立ってから、手すりや歩行器などを持ちながら、ゆっくりと小刻みに身体の向きを変えて座るようにしましょう。寝返りの時も両膝を立てて、同じタイミングで上半身と下半身の向きを変えるようにしましょう。
首の骨や背骨に転移すると、麻痺によって知覚障害や運動障害が起こることがあるので注意が必要です。首の骨や背骨を守るために、カラーやコルセットを装着したほうがよい場合もあります。
また、過度な前かがみの姿勢や後ろに反る姿勢、上半身をひねる動きは背骨に負担がかかるので避けたほうがよいです。身体の向きを変える時には、上半身だけでなく、下半身を含めて身体全体の向きを変えるように意識しましょう。
タバコは、消化吸収を妨げるだけでなく、骨から血液中に溶出するカルシウムを防ぐ作用のあるエストロゲンの分泌を妨げるといわれています。
適量の飲酒は問題ないものの、過剰なアルコール摂取は、利尿作用によりせっかく摂取したカルシウムを排泄するので注意が必要です。
睡眠時間を十分に確保できていないと、足元がふらつき、骨折するリスクが高くなります。骨転移による痛みやしびれなどの症状のために眠れない時には、担当医に相談するようにしましょう。
また、運動不足になって、夜になかなか寝付けなくなることもあります。明るい昼間に、無理のない範囲で身体を動かし、夜暗くなってから寝るように心がけるとよいです。どのような運動をすると良いか、担当医に聞いてみるようにしましょう。
骨転移があると骨の痛みはしびれが起こる時もありますし、病的骨折を恐れて思うように身体を動かせない場合もあります。しかし、骨は負荷をかけないと、もろくなっていくことがわかっています。痛みがない時には、ゆっくりと散歩をしてみるとよいでしょう。
また、骨を支える筋肉の力が弱くなると骨折しやすくなるので、担当医に相談しながら適切な負荷で筋力トレーニングを行うことも大切です。
骨転移が進行すると、転倒して骨折するリスクが高くなります。転びにくい住まい環境を整えるために、家の中の段差を減らし、トイレやお風呂、玄関などには手すりを設置し、つまずきやすい玄関マットやじゅうたんなどは撤去したほうがよいです。
歩く時には足元をよく確認するようにして、太ももを上げて、かかとから着くような歩き方を心がけましょう。脱げやすいスリッパやサンダル、転びやすいヒールの高い靴ではなく、運動靴のようなかかとをサポートしている靴のほうがよいです。
骨転移と診断されると、がんが骨に転移したからあきらめるしかないと思う方もいるかもしれません。しかし、最近ではがんの治療薬や治療法の改善により、がん患者さんの生存期間が長くなっているため、骨転移したからといってあきらめる必要はありません。
骨転移の進行の程度、症状、全身状態、患者さんの意思などを考慮し、適切な治療を行い、生活の質を維持することが大切です。
<この記事を書いたのは・・・>
如月 真紀(きさらぎ まき)
医師、医学博士、総合内科専門医。都内の大学病院勤務を経て、現在はアメリカで研究中。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、医療系コンテンツ制作など幅広く手がけている。研究の傍ら、医学の知識や医師の経験を活かし、患者や患者家族のためになるコンテンツ作成を目指している。
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