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ATL・HTLV-1の母子感染予防

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成人T細胞白血病(ATL)は、HTLV-1と呼ばれるウイルスが原因で発症する血液のがんです。HTLV-1の感染経路は、母子感染、性行為による夫婦間感染、HTLV-1感染者からの臓器移植による感染、輸血感染(日本国内において、現在は輸血による新たな感染はありません)です。

HTLV-1ウイルスは感染力がとても弱いため、ウイルスに感染した細胞が生きている状態で大量に体内に入り込まない限りは感染しません。しかし、母親がHTLV-1に感染している場合、その母乳を乳児が飲むことで感染してしまう可能性があります。

母子感染を予防するためには、正しい知識を持つことが大切です。

HTLV-1の母子感染とは

母子感染とは、母親から子どもにウイルスや細菌などの病原体が感染することを意味します。母子感染には、赤ちゃんがお腹の中にいる時に感染する胎内感染、赤ちゃんが生まれてくる時に感染する産道感染、母乳で感染する母乳感染が含まれます。

本来、HTLV-1ウイルスは感染力が弱く、ウイルスに感染した細胞が生きたまま大量に体内に取り込まれなければ感染しません。

しかし、HTLV-1に感染している母親の母乳には、HTLV-1に感染したリンパ球が含まれます。その母乳を赤ちゃんが飲むことによって、HTLV-1に感染したリンパ球が体内に取り込まれてしまい、感染が起きるケースがあります。

母子感染を予防するには

母子感染を予防するためには、HTLV-1に感染したリンパ球を含む母乳を赤ちゃんに与えないことが最も有効な方法の1つです。

ただし、母乳を与えることによるメリットや母乳を与えたいという母親の希望もあるため、予防法についても慎重に検討する必要があります。

「完全人工乳栄養」が最も有効

HTLV-1に感染している母親の母乳には、HTLV-1に感染したリンパ球が含まれています。そのため、母乳を与えずに、完全人工乳栄養とするのが最も有効な予防法だと考えられています。

平成21年度の厚生労働省科学研究班の報告によると、HTLV-1の感染率は、生後3か月(90日)を超えている母乳栄養児では17.7%ですが、完全人工栄養児は3.3%に抑えられています。

しかし、完全人工乳栄養で育てたとしても、3.3%の赤ちゃんがHTLV-1に感染していることになります。これは、胎盤からの感染があるのではないかと推測されていますが、現時点では明らかな原因はわかっていません。

赤ちゃんを母乳で育てたい場合

完全人工乳栄養がHTLV-1の感染予防に最も有効とわかっていても、母乳で育てたいという方もいらっしゃるでしょう。母乳で育てると、赤ちゃんとスキンシップがとりやすくなったり、赤ちゃんの免疫力が高まるなどのメリットもあります。

HTLV-1に感染していたとしても、赤ちゃんを母乳で育てたい場合は短期母乳栄養や凍結母乳栄養という方法があります。

短期母乳栄養

母乳で育てたいという強い希望がある場合は、『短期母乳栄養』という方法があります。短期母乳栄養では、生後から90日未満の短期間のみ母乳を与え、90日以降はミルク(人工乳)を与えます。

ただし、短期母乳栄養では、90日経過した後にミルクに切り替えなくてはいけません。90日でミルクに切り替えるために、1か月くらい前から母乳とミルクの混合栄養にするなどの準備が必要ですし、90日で授乳をやめたときの乳房のケアも大切です。

また、もし90日を超えて母乳を与えた場合には、感染リスクは約3倍高くなるといわれているので注意が必要です。

凍結母乳栄養

短期母乳栄養の他に、『凍結母乳栄養』という方法もあります。凍結母乳栄養では、-20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与えます。母乳を凍結処理すると、HTLV-1に感染したリンパ球が破壊されて感染能力を失うので、感染予防になると考えられています。

凍結母乳栄養は、栄養面で母乳のメリットを活かせますが、短期母乳栄養に比べて搾乳や衛生面の配慮などが必要なことが欠点です。最近では、食品の細胞を壊さずに美味しく食べられる冷凍庫も普及しているので、家庭用冷凍庫でHTLV-1に感染したリンパ球を壊せるかどうかわからないという問題点もあります。

子どもの抗体検査の必要性

子どもがHTLV-1に感染しているかどうかは、抗体検査で調べることができます。抗体検査をするメリットは、感染の有無がわかるだけでなく、HTLV-1感染者として注意すべきことや今後起こりうることへの向き合い方などを時間をかけて考えられるという点です。

また、もし成人T細胞白血病やHTLV-1関連脊髄症を発症した時に、HTLV-1感染者だとわかっていれば、すぐに原因を特定し、治療を始められるというメリットもあります。

子どもの抗体検査は、必ずしも幼少期に行わないといけないわけではありません。本人がHTLV-1やATLについてよく理解できるようになってから検査しても遅くはないでしょう。

子どもの抗体検査の必要性については、現時点では明確な方針が決まっているわけではないので、医療機関に相談しながら各家庭で慎重に決めるべきです。

抗体検査を行う場合

赤ちゃんは、生後半年くらいまで母親からもらった抗体を持っています。HTLV-1の抗体検査を生後すぐに行うと、母親からもらった抗体で陽性なのか、感染しているのかがわかりません。

また、赤ちゃんが感染した場合に、ウイルスに対する抗体をつくるまでに2年以上かかるといわれています。抗体検査を行う場合は、満3歳以降に検査することが推奨されます。

ATLとHTLV-1の母子感染予防に関するまとめ

HTLV-1の母子感染予防のためには、完全人工乳栄養、短期母乳栄養、凍結母乳栄養という方法があります。それぞれの予防法のメリット、デメリットをよく理解することが大切です。

不安や心配なことがある場合は、かかりつけの産婦人科や地域の保健センター、地域の拠点病院の相談窓口などで相談してみましょう。

他にも、HTLV-1に感染している妊婦さんやお母さんの会、患者会などもあるので、インターネットで検索してみるとよいかもしれません。HTLV-1に関する情報を得られたり、不安や悩みを相談することができます。

如月 真紀

<この記事を書いたのは・・・>

如月 真紀(きさらぎ まき)

医師、医学博士、総合内科専門医。都内の大学病院勤務を経て、現在はアメリカで研究中。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、医療系コンテンツ制作など幅広く手がけている。研究の傍ら、医学の知識や医師の経験を活かし、患者や患者家族のためになるコンテンツ作成を目指している。

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