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がん治療の進歩によって、がんを克服する患者さんも増えているため、治療後に妊娠を希望する方もいます。しかし、抗がん剤や分子標的薬が治療後の妊娠に影響を与える可能性があります。
治療前に、がんに対して使用する薬剤による妊娠への影響と対処法について、よく理解しておくことが大切です。こちらでは抗がん剤治療と妊孕性の関係について分かりやすく説明します。
妊娠する力のことを「妊孕性(にんようせい)」といいます。抗がん剤治療を行うと、妊娠をする上で重要な役割を果たしている卵巣に影響が出ることがあります。
卵巣の中には、妊娠するために必要な卵子がたくさん存在しています。卵子は加齢と共に減少することが知られていますが、抗がん剤を使用すると卵子の数が通常よりも早く減るので妊娠しづらくなると考えられています。
一般的に、抗がん剤を数か月間投与する場合には、開始してから2~3ヶ月で卵巣の機能が抑えられ、月経が停止することが多いです。治療後に月経が再開して自然に妊娠する方もいますが、月経があっても妊娠しづらい方もいます。
抗がん剤が卵巣に与える影響は、卵巣の機能や年齢、使用する薬剤の種類や量によって異なります。
卵巣の機能低下を起こしやすい抗がん剤は、卵巣毒性の高い抗がん剤といわれます。一方で、抗がん剤の種類によっては、卵巣への影響が少ないものや、ほとんどないと考えられているものもあります。
また、使用量によって卵巣への影響が変わる場合もあります。治療前に、使用する予定の薬剤と使用する期間、予想される卵巣への影響などを確認しておくことが大切です。
現時点で、明らかに卵巣毒性の高い抗がん剤として知られているものには、シクロフォスファミド、イホスファミド、ダカルバジンなどがあります。卵巣毒性が中等度の抗がん剤は、シスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、エトポシドなどです。
卵巣毒性が軽度または、ないと考えられている抗がん剤には、アクチノマイシンD、ビンクリスチン、メトトレキセート、フルオロウラシル、ブレオマイシンなどが挙げられます。
パクリタキセルやドセタキセル、ゲムシタビン、イリノテカンなどは現時点では明らかなデータがないので、卵巣の機能に影響を与えるかどうかはわかっていません。
内分泌療法で使用する薬剤も、妊娠に影響を与える可能性があります。しかし、どのように卵巣に影響を与えるのかは明らかになっていません。
乳がんや子宮体がんで使用するホルモン剤は、胎児に異常を引き起こす可能性があるので、治療期間中は避妊する必要があります。また、乳がんに対する内分泌療法は治療期間が5~10年間と長いため、治療後には加齢によって自然妊娠や安全な出産が難しくなることがあります。
乳がんの治療で抗がん剤治療の後に内分泌療法を行う場合には、内分泌療法を行わない場合に比べて月経の再開が遅れたり、閉経する可能性が高いことがわかっています。
一部の分子標的薬は、卵巣機能に影響を与えることがわかっています。例えば、ベバシズマブのような分子標的薬は卵巣の機能低下を引き起こす可能性があります。
抗がん剤の治療終了後は、妊娠が可能です。抗がん剤の中には、数週間~数か月間、卵巣に影響が残るものもあるので、念のため数回月経を確認してから妊娠したほうがよいといわれています。
また、タモキシフェンのような抗がん剤は、体内から薬が出るまでに約2か月かかるといわれているので、タモキシフェンの治療終了後2か月間は妊娠を避けたほうが安心と考えられます。
患者さんの年齢や全身状態、卵巣機能、使用した抗がん剤の種類や量などによって、妊娠・出産が可能と考えられる時期は異なるため、担当医に確認するようにしましょう。
医学の進歩により、がんを克服できる患者さんが増えたので、治療後に妊娠や出産を希望する方もいます。がん治療後に妊娠の可能性を残すための治療法を妊孕性温存療法とよびます。
妊孕性温存療法には、卵子凍結や受精卵凍結、卵巣組織凍結などがあります。ただし、妊孕性温存療法を行ったとしても、がんの治療後に必ず妊娠できるわけではないことを理解しておく必要があります。
また、妊孕性温存療法を行えるかどうかは、がんの種類ごとに決められた条件や患者さんの健康状態などを考慮して検討します。
妊孕性温存療法の1つに、がん治療前に卵子を採取し、凍結保存する方法があります。がん治療が終わったら凍結卵子を融解し、パートナーの精子と顕微授精し、数日間培養した胚(はい)を子宮内へ戻します。
顕微授精とは、精子を卵子内に注入して受精させる方法です。採卵までに2~6週間かかることがあります。卵子の凍結時には、パートナーは必要ありません。
採取した卵子とパートナーから採取した精子を容器の中で自然に受精させ、数日間培養してできた胚を凍結保存する方法もあります。がん治療が終わったら、融解した胚を子宮に戻します。
胚を凍結保存する方法は、最も確立された方法で、妊娠率も比較的高いといわれています。
妊孕性温存療法の1つに、卵巣を手術で摘出し、凍結する方法があります。現時点では、妊娠率などの治療成績や安全性が確立していない、研究段階の治療法です。
がんの治療後に、凍結していた卵巣を融解し、手術で体内に戻します。体内に戻した卵巣の機能が回復していることを確認できたら、自然妊娠や体外受精を検討します。ただし、卵巣組織の凍結保存は、日本では限られた施設でしか行われていません。
がんの治療によって妊孕性が低下する可能性があると認められると、住んでいる所の都道府県から妊孕性温存療法にかかる費用の助成を受けられます。
助成内容や費用は、都道府県によって異なることがあるので、詳細は自分で確認するようにしましょう。また、主治医に助成の対象になるか聞いてみるのも1つの方法です。
妊孕性温存療法に対して助成を受けるためには、43歳未満であることや各都道府県が指定した医療機関で妊孕性温存療法を受けるなどの条件があります。
具体的には、卵子凍結に対する助成上限額は1回につき20万円となっています。胚凍結に対する助成上限額は1回につき35万円、卵巣組織凍結に対する助成限度額は1回につき40万円となっています。一般的に、助成回数は2回までです。
抗がん剤による治療の後に、月経が再開するかどうか、卵巣への悪影響がどの程度あるかは予測が難しいといわれています。また、月経が再開したとしても自然に妊娠できるとは限りません。
治療期間が長い場合は、治療終了後には加齢により自然妊娠が難しい場合もあります。
将来の出産を希望する場合には、抗がん剤による治療を始める前に担当医に伝え、妊娠の可能性を残すための妊孕性温存療法についても相談するようにしましょう。
<この記事を書いたのは・・・>
如月 真紀(きさらぎ まき)
医師、医学博士、総合内科専門医。都内の大学病院勤務を経て、現在はアメリカで研究中。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、医療系コンテンツ制作など幅広く手がけている。研究の傍ら、医学の知識や医師の経験を活かし、患者や患者家族のためになるコンテンツ作成を目指している。
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