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症状が急激に進行すると生命にかかわる危険な病気、ATL(成人T細胞白血病)。強力な抗がん剤を実施して一旦は小康状態となるのですが、早期に再発するという、なかなかやっかいな病気です。ここではATLの特徴や治療方法、特に抗がん剤治療や造血幹細胞移植について詳しく説明します。
目次
ATL(成人T細胞白血病)は、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)というウイルスに感染することで発症する病気です。具体的には、白血球のひとつであるT細胞がHTLV-1に感染し、がん化したATL細胞が増殖することで発症します。ただ、HTLV-1に感染した人が必ずATLを発症するわけではなく、感染しても一生のうちに発症する確率は約5%といわれています(※)。
T細胞は白血球の中でも免疫を司る重要な役割を果たしているため、ATLを発症すると重い免疫不全を起こします。そうなると、健康であればかからないような感染症でもかかりやすくなります。これを日和見(ひよりみ)感染といいます。ATLが進行するとさまざまな臓器に障害をきたし、治療せずに放置すると生命に関わります。
※参照元:造血器腫瘍診療ガイドライン http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/2_8.html
HTLV-1は、ウイルスに感染した細胞が大量に体内に入り込むことで感染します。ウイルスに感染した細胞は、HTLV-1感染者の血液・母乳・精液などに含まれます。HTLV-1の主な感染経路は、母子感染・性行為による夫婦間感染・感染者からの臓器移植・輸血による感染が挙げられます。
母子感染とは、細菌やウイルスなどの病原体が母親から子どもに感染することを意味します。母子感染は、胎児がお腹の中にいる時に感染する胎内感染(子宮内感染)、赤ちゃんが産道を通る時に感染する産道感染、母乳を与えることで感染する母乳感染が含まれます。
以前は、輸血による感染もありましたが、日本では昭和61年以降、輸血用の血液に対してHTLV-1に感染しているか検査するようになったため、現在は輸血による感染はありません。
HTLV-1は、感染力が非常に弱いため、ウイルスに感染した細胞が生きている状態で大量に体内に入り込まない限りは感染しません。
主な感染経路は母子感染・性行為感染・臓器移植で、授乳や性交渉以外の普通の日常生活ではうつることはないと考えてよいでしょう。たとえば、咳やくしゃみ、隣に座る、握手をする、キスをする、同じ食器を使う、プールやお風呂に一緒に入る、タオルやトイレを共有するなどの行為も問題ありません。
性行為感染についても、一度の性行為で感染するリスクは極めて低いとされています。感染の可能性が高くなるのは、長期間にわたって同じパートナーとの性行為が続く場合に限られます。また、母乳や胎盤などを介して親から子どもにうつる可能性はあるものの、遺伝はしないことがわかっています。
ただし、血液が付着した歯ブラシやカミソリを共有するのは感染のリスクがあるため避けましょう。
ATLの主な症状として、全身のリンパ節が腫れたり、肝臓や脾臓が腫れたり、原因不明の発熱などが頻繁にみられます。皮膚の赤い湿疹や隆起(皮膚紅斑)、皮膚の下のしこりといった皮膚症状、下痢や腹痛などの消化器症状も多くあります。ATLが悪化すると血液中のカルシウム値が上昇し、全身の倦怠感や動悸、息切れ、意識障害などを起こします。また、前述のとおり免疫低下による日和見感染を高い確率で発症します。細菌だけではなく、ニューモシスチス肺炎やクリプトコッカス肺炎、カンジダ症やアスペルギルス症などの真菌感染、サイトメガロウイルス肺炎や汎発性帯状疱疹などのウイルス感染、糞線虫症などの寄生虫感染などにかかる可能性も高くなります。
ATLには固形がんのような病期(ステージ)分類はありませんが、以下のようなタイプに分類されます。
HTLV-1に感染すると、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)を発症することがあります。ATLは、HTLV-1が白血球の1つであるT細胞に感染し、がん化した細胞が増えることで発症する血液のがんです。
ATLの症状には、全身のリンパ節の腫れや皮膚の発疹、下痢、便秘、頭痛、倦怠感、意識障害、免疫不全などがあります。
ただし、HTLV-1に感染したからといって必ず成人T細胞白血病リンパ腫を発症するわけではありません。確率は2~5%です。
ATLを診断するための検査には、血液検査や骨髄検査、生検などがあります。血液検査では、HTLV-1感染の有無やATLに特徴的な細胞の有無を調べ、確定診断のために骨髄の検査や腫れているリンパ節などの生検を行います。骨髄検査とは、皮膚を消毒して麻酔をした後に、腰や胸の骨に針を刺して骨髄組織を採取する検査です。病気がどれくらい広がっているかを調べるためには、CTやPET-CTなどの画像検査を行う必要があります。
ATLに対する治療方法のひとつが、抗がん剤を使用する化学療法です。抗がん剤はがん細胞を直接攻撃しますが、正常な細胞にもダメージを与えるためさまざまな副作用を起こします。抗がん剤には多くの種類があり、通常は複数の抗がん剤を組み合わせて効果を高めつつ、できるだけ副作用を抑えるようにします。それでも、重い副作用をきたす人も少なくありません。代表的な副作用は脱毛や食欲不振、吐き気などですが、深刻なのは骨髄抑制で、白血球の減少によって感染を起こしやすくなったり、血小板の減少で出血しやすくなったり、輸血を要する場合もあります。また、肝臓や腎臓、心臓、肺に障害を起こすこともあります。
化学療法の期間中は問診、診察と検査を頻回に行ない、効果と副作用を慎重に観察しながら治療を進めます。抗がん剤は内服や注射、点滴で投与しますが、腰から薬剤を注射して脳や脊髄をATL細胞から守る治療法もあります。
化学療法はATLに対する治療として多く行なわれていますが、実はまだ治療効果が十分に確立されていません。ATLで抗がん剤をやめたいと思われる要因として、副作用と共にこの治療効果が影響していると考えられます。
また、がんの治療が妊娠・出産に影響する可能性もありますので、将来子どもを産むことを希望している場合には、妊孕性の温存が可能かどうかを担当医と相談してみてください。
ATLに対するもうひとつの代表的な治療法が造血幹細胞移植で、それには骨髄破壊的移植と骨髄非破壊的移植の2種類があります。
骨髄破壊的移植は、大量の抗がん剤投与や放射線照射でATL細胞を抑制する処置を施した後、ドナーからの正常な造血幹細胞を移植して破壊された骨髄を回復させる治療です。造血幹細胞を提供するドナーと患者さんは、HLAと呼ばれる白血球の型が一致している必要があります。一致している可能性がもっとも高いのは兄弟姉妹ですが、それでも確率は25%です(※)。親子は通常一致しませんが、兄弟姉妹の中にいなければ調べます。血縁者の中にいなければ、骨髄バンクに登録している人の中から探すことになります。HLAには6つの方があり、完全に一致していることが原則ですが、提供者が見つからない場合は完全に一致していなくても移植を行なうケースもあります。
※参照元:国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/HSCT/index.html
副作用として、抗がん剤と同様の強い骨髄抑制が予想されます。また、造血幹細胞を移植してもすぐに血液がつくられるわけではないので、それまでの間は無菌室で過ごさなければなりません。大量の抗がん剤投与や放射線照射を受けているので、脱毛や吐き気といった副作用のほか、心臓や肝臓、腎臓などに障害が起きることもあります。
このほか、造血幹細胞移植に特有の副作用である「GVHD」に注意しなければなりません(後述)。
骨髄破壊的移植に対して、ミニ移植とも呼ばれている骨髄非破壊的移植という方法もあります。年齢の問題や全身状態の悪化によって大量の抗がん剤を使用できないなど、骨髄破壊的移植の適応がない場合に、抗がん剤の量や放射線照射量を減らすことで対応します。移植の方法や治療の流れは骨髄破壊的移植と同じですが、ATLに対する効果はあることが報告されています。しかし、GVHDなどの副作用は同様に起こります。
造血幹細胞移植を受け、ドナーの正常な造血幹細胞が白血球をつくり出すようになると、その白血球が患者さんの身体そのものを異物とみなして攻撃する免疫反応が起こることがあります。これをGVHD(移植片対宿主病)といいます。症状は皮膚に発疹がみられる程度から、肝臓や胃腸に障害が起きて黄疸や下痢を伴い、時には重篤な状態に陥るものまでさまざまです。
免疫抑制剤を用いて症状をコントロールしますが、GVHDにはATL細胞を攻撃するという良い作用もあるので、免疫抑制剤の調整が非常に重要です。
日本血液学会のガイドラインによると、近年では進行が早いタイプのATLの生存期間中央値が13カ月、進行が遅いタイプも急性型へ転化すると1年とされています。そのような中、ATLに対するANK免疫細胞療法の効果を示す論文が発表されました(※)。
※参照元:British Medical Journal(BMJ)「Effectiveness of Amplified Natural Killer (ANK) Therapy for Adult
T-cell Leukemia/Lymphoma (ATL) and Future Prospects of ANK
Therapy」[pdf]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8986168/pdf/nihms-1788239.pdf
対象となった患者さんは、症状の身体を繰り返す「くすぶり型」のATLと診断されていました。急性型に転化したことで腫瘍マーカーは急激に増加、リンパ球に占めるATL細胞の比率を示す異常細胞率も27%に達しました。
ANK免疫細胞療法を受けた結果、腫瘍マーカーの値は低下して落ち着き、ATLに伴う皮膚症状や高血圧、血液検査の異常値も改善され、自宅で日常生活を送れるようになるまで回復しました。この患者さんはATLではない病気で残念ながら亡くなられましたが、ANK免疫細胞療法の終了後から5年以上、ATLの症状は起きずに過ごしていました。また、急性型に転化してからはANK免疫細胞療法以外の治療は受けていません。
ANK免疫細胞療法は幅広い領域のがんが治療の対象になりますが、その中でなぜATLの症例が論文発表されたのでしょうか。
その背景には、前述のとおりATLは化学療法などの標準治療が確立していないため社会的な要請が強いこと、そしてANK免疫細胞療法単独の効果であることが示しやすいという理由もあるのでしょう。
白血病は固定がんと違って血液中にがん細胞が存在するので、血液検査で随時診断が可能です。固形がんよりも治療効果を判定するデータを取りやすく、明確な治療効果の根拠となったのです。
ATL細胞は、血液中のカルシウム値を上昇させるタンパク質であるPTHrPを産生します。血液中のカルシウム値が高い状態を高カルシウム血症と呼びます。
高カルシウム血症は、特徴的な症状に乏しいことが知られており、軽度の場合はほとんど症状がありません。しかし、血液中のカルシウム値が高くなりすぎると、筋力低下、悪心嘔吐、口渇、多飲、多尿、倦怠感、食欲不振などの症状が出ます。
高カルシウム血症を治療しないと、腎機能低下や脱水などが引き起こされるため、脱水を改善するための点滴や骨からカルシウムが放出されるのを抑える薬の投与が行われます。
ATLは、白血球の中でも免疫を担当しているT細胞にHTLV-1ウイルスが感染し、がん化する病気です。つまり、ATLを発症すると、免疫がうまく働かなくなり、免疫不全と呼ばれる状態になります。
免疫不全になると、健康な人なら問題とならないような感染症にかかりやすくなります。健康な人ならかからないような感染症のことを『日和見感染症』と呼びます。
日和見感染症の原因となる病原体には、細菌、ウイルス、真菌などが含まれます。具体的には、緑膿菌、カンジダ、アスペルギルス、サイトメガロウイルスなどが挙げられます。
HTLV-1に感染すると、約5%がATLを発症することがわかっていますが、ATL以外の病気を発症する可能性もあります。
たとえば、約0.3%はHTLV-1関連脊髄症(HAM)という神経の病気を発症し、HTLV-1感染者10万人あたり90~110人はHTLV-1関連ぶどう膜炎(HU/HAU)という眼の病気を発症します。ATLとHAM…などのように、複数の合併症を発症する場合もあります。
HTLV-1に感染すると、HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-Associated Myelopathy: HAM)という病気を発症する可能性があります。HTLV-1感染者の約0.3%において、HAMを発症すると報告されており、国の難病にも指定されています。
全国でHAMの患者さんは約3000人で、男女比は1:2~3と女性のほうが多いのが特徴。発症することの多い年代は40~50歳代ですが、10歳代などの若い頃や60歳以上で発症する方もいます。
HAMの初期症状としては、足のもつれ、転倒、両足のしびれ、両足のつっぱり感、残尿感、頻尿、便秘などが挙げられます。HAMが進行すると、骨折や床ずれ、低温やけど、膀胱炎、深部静脈血栓症などを起こすことがあるので注意が必要です。
HAMの特効薬は現在開発されておらず、治療では脊髄で起こっている炎症を抑える薬、足の痛みやしびれ、つっぱりを改善する薬などを投与します。ロボットスーツを利用した運動療法を行うこともあります。
HTLV-1に感染すると、HTLV-1関連ぶどう膜炎(HTLV-1 Uveitis/HTLV-1 associated Uveitis: HU/HAU)を発症することがあります。HTLV-1に感染している方が10万人いたとしたら、90~110人くらいの方にHU/HAUが起こるといわれています。女性のほうが発症しやすく、患者数は男性の約2倍です。
HU/HAUは、眼の中のぶどう膜と呼ばれる場所に炎症が起きる病気で、目の前に虫やゴミが飛んでいるように見える、かすんで見える、目の充血、視力の低下などの症状が出ます。HU/HAUにはステロイドがよく効くので、ステロイドの点眼薬や内服治療で1~2か月の間に改善することが多いです。ただし、HU/HAUは再発しやすいので注意が必要です。
ATLやHAM、HU/HAU以外にも、HTLV-1との関連が疑われる病気があります。
たとえば、シェーグレン症候群や筋炎、関節炎、肺病変などです。ただし、関連が疑われてはいるものの、その因果関係ははっきりしていません。
東京女子医科大学医学部卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。
どんながんも治る魔法の薬はありません。
ゆえに、保険治療の抗がん剤だけでは緩和や延命が目的になることもありますが、ほかの治療と併用することで好転することもあります。できる治療すべてを試す覚悟が大事だということも覚えておきましょう。
治療のひとつの選択肢として挙げられるのが、ANK免疫細胞療法。がん退治の本命細胞である「NK細胞」を活性化させてがん治療を行っていく免疫療法のひとつです。
以下の動画で、ANK免疫細胞療法のしくみを詳しく紹介していますのでぜひご覧ください。